テレワークにおけるメンタルヘルスケア
新型コロナウィルス蔓延状態が長引く中で、うつ病などメンタルヘルス不調者に対する企業の対応が注目されています。
2020年4月から5月の緊急事態宣言をきっかけに、緊急時対応として急速に普及拡大したテレワークですが、今後テレワークの本格活用を進めるといった企業が一定数存在しており、「新しい働き方」のひとつとして位置づけられつつあります。この記事では、企業の新しい働き方へのシフトとメンタルヘルス対応についてどうあるべきかを考えます。
目次[非表示]
- 1.メンタルヘルスとは
- 2.企業のメンタルヘルスに関する責任とは
- 3.コロナ禍のメンタルヘルスの状況
- 4.今後のメンタルヘルスケアのポイント
- 4.1.研修や自己チェックでセルフケアを強化
- 4.2.他者との繋がりを強化
- 4.3.リアルタイムで把握・早期対応
- 5.まとめ
メンタルヘルスとは
メンタルヘルスとは、「心の健康状態」という意味であり、ストレスなどが原因となって無意識のうちに自分自身をコントロールできなくなってしまう状態が、いわゆるメンタルヘルス不調です。職場においては、組織や従業員の生産性、経営リスクマネジメントと密接につながっています。
企業のメンタルヘルスに関する責任とは
そもそも労働契約上、会社と管理職は従業員に対する安全配慮義務を負っています。近年はメンタルヘルス不調者の増加を受けて、相談窓口の設置などを講じる企業が増えていますが、それだけで安全配慮義務を果たしているとは言えず、過去の判例でも、従業員の長時間労働や健康悪化を知りながら、具体的な業務軽減措置を取らなかった企業の安全配慮義務違反を認めたケースも出てきています。
2006年、厚生労働省は「労働者の心の健康の保持増進のための指針」を発表しました。事業者は「心の健康づくり計画」を策定し、計画に基づいて4つのケア(セルフケア・ラインによるケア・事業場内産業保健スタッフ等によるケア・事業場外資源によるケア)を推進することや、メンタルヘルスケアの具体的進め方として「メンタルヘルスケアを推進するための教育研修・情報提供」「職場環境等の把握と改善」「メンタルヘルス不調への気づきと対応」「職場復帰における支援」の4項目が示され、これに沿って企業のメンタルヘルス対策を推進してきた企業が多いかと思います。
そんな中、厚生労働省が発表した「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」において、企業が「過重労働対策やメンタルヘルス対策を含む健康確保の措置を講じる必要がある」とし、「テレワークを行う労働者の健康確保を図ることが重要」としています。そのため、テレワークが普及拡大する中で、従業員のメンタルヘルス対策に取り組む必要性もいっそう高まっていると考えられます。
コロナ禍のメンタルヘルスの状況
令和3年3月に厚生労働省から発表された「新型コロナウィルス感染症に係るメンタルヘルスに関する調査」によれば、「自分や家族への感染の不安」「自分や家族の仕事や収入への不安」もあり、テレワークの実施有無にかかわらず、多くのストレスを感じています。また、「食事量」「睡眠時間」「運動量」などに変化が生じ、生活リズムが乱れている人も出てきています。
また、厚生労働省が令和3年6月23日に公表した令和2(2020)年度の労災補償状況によると、仕事の強いストレスに伴う精神障害の労災認定は前年度比99件増の608件で、2年連続の増加で、過去最多を更新しています。
データ出所:厚生労働省「過労死等の労災補償状況」より
国や自治体の要請を受けて、テレワークを長期に実施している企業からは、従業員のテレワークに向かない職種との不公平感、テレワーク勤務者の評価制度、組織内のコミュニケーション不足など、様々な課題が挙げられており、従業員からは上司や同僚とのコミュニケーション、成長機会の損失、在宅での就業環境・機器等、仕事をするための環境整備面での課題も挙げられています。
ここで改めて、従業員にとってテレワークのメリット・デメリットを整理すると次のようになります。
昨年は、短期間でテレワークでの就業ができる環境を整えるだけで精一杯というのが実情で、このメリット・デメリットの影響を従業員一人ひとりがどのように感じているかを把握できている企業はまだ少ないようです。
今後のメンタルヘルスケアのポイント
アフターコロナにおいてもニューノーマルの働き方として、テレワークを継続していく、または働き方の一つとして選択できるようにしていく企業が多い中で、今後、企業はどのようなメンタルヘルスケアを推進していけばよいのでしょうか。
研修や自己チェックでセルフケアを強化
これまで年1回のストレスチェック以外に、セルフチェックをする機会がなかった従業員も少なくないと思います。また、セルフチェックの結果を受けて、どのような対応をとるべきか、予防するためにどのようなことに気を付ければよいか、知識がなければ適切な対応ができないでしょう。
ストレスマネジメント研修などを活用し、本人が自分のストレスについて客観的な情報を得ることで、ストレス過多を未然に防止することが必要です。
他者との繋がりを強化
一人暮らしの方には、テレワーク中気が付くと数日間誰とも会話をしていない、といったことも起こりえます。メンタル不調は、本人も気づかないうちに進行している場合が少なくない上に、仮に気づいていても、上司や周囲に弱みを見せたがらない社員も多く、発見は遅れます。早めの相談を受けるために、普段からの信頼関係構築が重要です。
特に、以下の言動が見えた時は注視が必要です。
- 遅刻や早退、欠勤が増えた
- 服装や化粧など見た目に無頓着になった
- 仕事の生産性が著しく下がった(メールの返信が遅くなった、資料のミスが多くなった等)
- チャレンジをしなくなった
- ネガティブな発言が多くなった
- チームメンバーとのコミュニケーションに距離を置くようになった
- 日報の量が減った
- 相談をしてくる回数が減った
テレワークをきっかけに1オン1の頻度を増やしたり、ゲーム感覚でお互いの仕事の価値観を共有する時間をオンラインで設けるなど、具体的な工夫を講じている企業も増えてきました。
コミュニケーション量が増えれば、前述のテレワークによるメリット・デメリットの影響について、個人の捉え方を把握することもできます。
リアルタイムで把握・早期対応
本人のメンタルヘルスの状況や労働時間について、上司がタイムリーに把握し、早期発見・早期対応することが非常に重要になります。この把握には、ITツールを活用することがおすすめです。
例えば、パルスサーベイは週に一度、月に一度といった高い頻度で実施するため、結果はすぐに確認できるようになっています。 年次で行うような大規模な調査は設問数が多く、分析結果が出るまでに時間がかかってしまうことも多いですが、パルスサーベイではリアルタイムに結果を把握できます。
労働時間についても、上司や人事が労働時間が長くなっている従業員をすぐに確認できれば早期対応に繋がります。
これまで、顔色や服装などから瞬時に読み取っていた部下や同僚の変化・違和感を、今後は個人データから瞬時に判断できなければなりません。分析に時間がかかってしまうことや分析によって出された危険信号が放置されては意味がありませんので、ITツールにより早期発見することと、放置されず確実に早期対応ができる仕組みをつくることが求められます。
まとめ
メンタルヘルス悪化は、社員の「生産性悪化」「労災リスク」に直結し、企業にとって大きな損失に繋がります。加えて続くコロナ禍、企業規模問わず、社員一人ひとりにかかるストレスは大きい状況です。
在宅勤務制度や社内感染を防ぐためのガイドライン策定を整えることに注力してきた人事部門には、本来、同時並行で進めるべきであった「メンタル不調を防ぐ予防策」「不調者の早期発見・早期対応できる体制や仕組みづくり」「メンタルヘルス教育の実施」等を迅速に実現することが求められています。