セカンドキャリアに向けた「リカレント教育」と「セカンドライフ教育」とは
2021年における人事領域の大きなトピックといえば、この「高年齢者雇用安定法」の改正法が4月に施行時期を迎えたこと。「70歳までの就労機会確保を企業の努力義務とする」という点が中心となっており、これまでの「65歳までの雇用確保」の延長線上にあるものといえます。
人生100年時代という概念が定着してきた近年、制度の改定だけに留まらず、ミドルシニアたちが「働かないおじさん」になることなく、エンゲージメント高く活躍できるように「リカレント教育」や「セカンドライフ教育」を導入している企業が注目されています。
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2021年4月施行「高年齢者雇用安定法」の改正法のポイント
『令和2年版高齢社会白書』によれば、日本の人口1億2,617万人(2019年)のうち65歳以上の人口は3,589万人で、総人口に占める割合は28.4%にも達しています。少子化が進み、高齢者が増え、労働人口が減少している現在、その高齢者を雇用することで労働力を確保しよう。そんな狙いが「高年齢者雇用安定法」にはあるといえます。
●対象となる事業主:
①定年を65歳以上70歳未満に定めている事業主
②65歳までの継続雇用制度(70歳以上まで引き続き雇用する制度を除く。)を導入している事業主
●対象となる措置(努力義務)
以下の(1)~(5)のうち、いずれかの措置を講じるよう努める必要があります。
(1)定年を70歳に引き上げ
(2)70歳まで継続雇用する制度の導入
(3)定年制の廃止
(4)70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
(5)70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
a.事業主が自ら実施する社会貢献事業
b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業
※(4)(5)は創業支援等措置(雇用によらない措置)となり、過半数労働組合等の同意を得て導入できます
出所:厚生労働省「高年齢者雇用安定法改正の概要」より抜粋
今回、2012年改正における「65歳までの雇用確保措置」と異なることとして注目されている点は、2012年改正は、希望する高齢者全員を対象とした制度の導入が義務となっていましたが、今回の改正「70歳まで継続雇用する制度」などでは、対象者を限定することが可能となっています。
前提として、対象者基準の内容は、過半数労働組合などと十分に協議して同意を得ることが望ましいとされており、基準として認められるものと認められないものがありますので、基準の設定には注意が必要です。
リカレント教育とは
「リカレント教育」とは、人生で「働くこと」と「学ぶこと」を交互に繰り返す教育システムのことで、「社会人の学び直し」とも呼ばれています。つまり、学生時代が終わって社会人になってからも、新たなスキルや知識を取得するために、学びを反復・継続することを意味します。「リスキル」とも表現されます。
リカレント教育に関心がある方は、「生涯学習」という言葉も一度は聞いたことがある方が多と思いますが、「生涯教育」とは、豊かな人生を送ることを目的として行う、あらゆる学習のことを指します。その中には、仕事に関するものだけでなく、スポーツやボランティアなどの趣味や生きがいにも通じる内容が含まれています。
一方、リカレント教育とは、先述した通り、人生で「働くこと」と「学ぶこと」を交互に繰り返す教育システムのことで、働き続ける上でのスキルアップ・キャリアアップ等を目的とした学習になります。内容も、仕事に活かせる知識やスキルとなっており、そこには趣味や生きがいを目的とした学習は含みません。
リカレント教育が注目される背景
高齢者雇用安定法の改定により従業員が働ける期間は伸びていき、その中、老若男女関わらず、全ての人が長期的に活躍するためには、一つの会社内で通用するスキルのみを習得するのではなく、転職や起業など様々なキャリアプランの可能性を考慮しながら、常に新しい知識やスキルを習得し続けることが欠かせない、ということになります。それにより、定年退職後の再雇用・再就職やライフイベント後の仕事復帰など、多様な働き方の選択も可能になるでしょう。
また、近年、IT技術革新が急速に進み、それに伴い、市場も大きく変化しています。変化の激しいこれからの時代では、若い頃に一度身につけた知識やスキルだけでは、すぐに通用しなくなってしまうリスクがあります。そのため、常に新たな知識をアップデートし、それを現場で実践して、スキルを向上させていくことが求められています。
ITスキルの他にも、今の20代とのコミュニケーションの取り方、𠮟り方なども学び直しが必要になっている方は多いと思います。若い世代から「肩書がなくなれば付き合いたくない人」と思われないように、コミュニケーションの基本である相手を理解するためのスキル向上は、組織に属する上で必須といえます。
セカンドライフ教育とは
リカレント教育と併せて注目されているのが「セカンドライフ教育」です。リカレント教育はスキルの習得を目的としていますが、セカンドライフ教育は、各個人が主体的に自分のキャリアプランを考え、多様な選択ができるようにすることを目的としています。
例えば、以下のようなことを学び習得していきます。
① 定年を迎えた際の自分の経済状況を具体的に理解する(収入、支出の額や生活費の算出など)
② 自分のこれまでの職業経験を振り返り、知識・経験を棚卸しするとともに、自分の強み・弱み(課題)を再確認する
③ 自分の生きがい、やりがい、こだわりポイントなどキャリアアンカーを明確にする
介護保険制度や年金制度を正しく理解していない人も多く、漠然とした不安を抱えていることも多いのです。今後の人生で必要となるお金を理解することは、自分の働き方を選択する上で重要となります。
60代からも社員が活躍できるために人事がすべきこと
昨今、人事業界のトレンドワードにもなっている「働かないおじさん」問題。年功序列のメンバーシップ型雇用で、彼らは会社の都合で多くの職場をたらいまわしにされた結果、軸となる専門性が身に付いておらず、マネジメント職を外れ、ひとりのエキスパートとしては賃金にみあった仕事ができないことが多いのですが、それでも、年功序列、終身雇用のもとで、年収があまり落ちず、クビにもなりません。すると、向上心がなくなり、やがて働かなくなるという構造です。つまり、日本の雇用スタイルが「働かないおじさん」問題を生み出す原因でもあります。
今後は、どのようにして60代からも活躍し続ける社員を増やしていけばよいのでしょうか。
40代から個人でパフォーマンスを出すことができるスキルを身に着けさせる
すべての社員が何らかの専門性を持つためのキャリアプランが必要です。
60歳間際になって各個人で考えても手遅れなため、40代から企業側が逆算したキャリアプランを準備し、それに紐づくリカレント教育やセカンドライフ教育をはじめとする教育や訓練が必要になります。
現在管理職として活躍している人にも、「部下がいなくてもExcelの関数は組めますか?」「一人でZoomを使って商談できますか?」「データが管理されているシステムを操作して分析できますか?」と、部下やアシスタントがいなくなった時に自立して仕事を進められなければ、あなたは「働かないおじさん予備軍」である、ということを気付かせることが必要です。
これまでキャリア面談の対象を若手中心としていた企業は、ミドルシニアまで広げることも検討が必要です。
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キャリアの複線化・ジョブ型の導入
キャリアの複線化とはマネジメントコース・スペシャリストコース・エキスパートコースなど会社が用意したコースを社員が選択できたり、行き来ができるように設計されていることを意味しています。
「管理職至上主義」で賃金や処遇差が大きい企業の場合、必然的に非管理職への転換はネガティブ要素としてとらえられることがあります。余人に代えがたい専門的なスキルを早くから保持することを高く評価し、それを処遇する制度、例えばジョブ型制度などを検討することが、社員のスキルアップ意欲を高めること繋がります。
副業・兼業制度の活用
厚生労働省が平成30年1月に策定(令和2年11月改定)された「副業・兼業の促進に関するガイドライン」には、副業・兼業は社員がスキルや経験の習得に有効であることが記載されています。そして何より、自分の市場価値が明確になることが社員にとって大きいと言えます。
終身雇用の時代に生きてきたミドルシニアたちは転職活動をしたことがない人も多く、肩書がない中で、どこまでパフォーマンスが出せるのか、自分のパフォーマンスに対する市場の評価はどの程度かを理解するには、副業・兼業制度の活用は有効です。
まとめ
人生100年時代となり、定年を迎える10年、20年前からセカンドキャリアを意識させ、多様な選択ができる環境を作ることは、社員だけでなく企業側にとってもメリットは大きいと思います。
リカレント教育やセカンドライフ教育などの教育訓練だけでなく、「管理職至上主義」となっている人事制度などの見直しとセットに環境づくりに取り組むことが、若手を含む社員全体のエンゲージメント向上に繋がるのではないでしょうか。